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「君に届け ヤン早シリーズ」
君に届け ヤン早シリーズ0.5


熱病 ~Under the Rose 風早篇~ 前篇(君に届け ヤン早シリーズ0.5)

2008.07.14  *Edit 

君に届け ヤン早シリーズ1 夕立のちょっと前の出来事。
Under the Rose の風早視点1  後編はこちら

----------1---------- 



風早が爽子を見かけたのはほんの偶然だった。


爽子とうまく話せなくなって、随分たった気がする。
あんなに近くに感じていたのに彼女が遠い。
前は彼女の世界には自分と他に数人しかいなかったのに、彼女の世界が広がるに連れて自分の存在は反比例して縮んでいく。
少しずつ小さくなってやがてぷちんとその存在が消える日を思うと窒息しそうな気がした。
もやもやした気分を晴らすために風早は出かける事にした。

「ん?翔太どこ行くの?」
「-ちょっと走ってくる。」
走って走って、このもやもやが蒸発すれば良い。
小さな炎にちりちりと焼かれ続けるような痛みも一緒に消えてしまえば良い。

風早は久々に全力で走って体中が酸素を求める感覚や、心地よい汗が体中を流れる感覚に鬱屈を晴らした。
やっぱり体を動かすのは好きだ。
風早がずっと中学まで続けていた野球をやめたのは、ただ身体を動かす事が好きなだけの自分と龍やチームメイトの温度の差を感じたからだった。
練習してうまくなり、勝つ喜びも負けた悔しさを跳ね返す喜びも知っているが、それ以上がない。
あの寡欲な幼馴染の秘める情熱を目の当たりにした時から風早は
自分は違うなと思ったのだ。
何が違う、とははっきりわからなかったが。
風早はどちらかというと誰かを応援するのが好きだった。

だから不器用だけど真摯にがんばっている爽子に惹かれたのかもしれないと思う。
最初はあの真摯で前向きな彼女が笑うのが見たくて、彼女の世界が広がるのがわが事のように嬉しくて、白い小さな花の蕾が少しずつ開くのを眩しい思いで見ていただけだったのに。

いつからかそれが苦しくなった。
周りが彼女の良さに気付かない事をもどかしく思うのに、一方で彼女の美しい本質など誰の眼にも見えなければ良いと願ってしまう。
そしてこの独占欲はいまや自分の手にも負えないほどに膨れ上がってきつつあるのだ。

『いつか応援できなくなるかも知れない』
前に彼女に半ば冗談で言った台詞はいつのまにか本当になっていた。

彼女の世界が広がるのにすら痛みを覚えるのに、ましてや彼女に想い人ができてしまったらどうなるんだろう。
風早はそんなことを想像するだけで心が軋むように痛んだ。

好きだと告げてしまおうと何度も考えたけれど
そう告げることを想像したとき、困った戸惑う顔しか思い浮かばない。

…困らせたいわけじゃないんだ。
それに。

風早は爽子の柔らかな笑顔を思った。
あの無防備で柔らかい真綿のような心に自分の我侭な想いを押し付けるのは、怖い。
もうこの想いが混じりけのない綺麗なものではないことは自分が一番わかっていた。

好きな子の吐息を、唇を、肌を、夢見ない男などいない。

爽子の純真さに、優しさに、清らかさに触れるたびに自分との距離に泣きたくなった。

風早は橋の上で立ち止まり切れる息を整え、汗を拭った。
初夏の爽やかな風が頬をなでる。
風早は風が運ぶ水の匂いに胸がすく思いがした。
欄干に手をかけてきらきらひかる水面を眺めようとしたとき、目の端が何かを捕らえた。
ほぼ無意識にそちらに目をやるとその先に小さく長い髪の少女が見えた。
淡い白のワンピースに身を包んだその少女はまぎれもなく己の想い人だ。
考える間もなく風早は走り出そうと身体をそちらに向けた。
その時、よく知った声がして風早は足を止めた。
「あれー風早じゃん。何してんのこんなとこで。」
それは呑気なクラスメートの城ノ内の声だった。
「え、いや、なんとなく走ってただけだよ。…退屈だったからさ。」
「ふつー退屈で走るかぁ?犬みてーな奴だな。」
あはは、と笑う友達は、そのまま風早に話し続けてきた。
「そういえばこないだピンの奴がさー…」
楽しそうに話し続ける友達を遮る事もできずに風早は爽子を気にしながらも話を続けた。
「じゃーな風早。」
城ノ内が手を振って別れた時には既に爽子の姿はどこにも見えなくなっていた。
風早は慌ててさっき爽子のいた方向に走り出した。

息が切れるほど走って、立ち止まって汗を拭うと風早の口元に苦い笑いが浮かんだ。

追ってどうするんだ?…偶然見かけたから後を追ったなんてまるでストーカーじゃないか。
そんな事言えるわけない…言ったら嫌われる。

風早はもう一度苦く笑って帰ろうと歩き出した。
しかしなんとなく帰る気になれなくてあてどなく歩いていると白い花びらがふわりと舞う姿に眼を奪われた。
よく見るとそれは小さな蝶だった。
なんとはなしにそれを眼で追うと公園にむかってひらりひらりと飛んでいった。

-そういえば彼女は花が好きだったな。

『特命花壇係だから』

嬉しそうにはにかんだ微笑を思い出し、風早の口元に今度は温かな笑みが宿る。

白く儚い蝶がまるで爽子みたいに思えて風早は誘われるように公園に足を向けた。


休日の長閑な公園は野薔薇の清潔な甘い匂いがしてずっとこの頃抱えている焦燥が和らいだ。

なんとなくだったけど来て良かったな。

そう思いながらぶらぶらと公園を散策していると、野薔薇の一群があることに気が付いた。
白や薄桃色の花は初夏の風に仄かに色をつける。
おとぎ話の挿絵のような一角に回りこむとそこに野薔薇に囲まれるようにしてベンチがあることに気が付いた。

そしてそこに幼子のように眠る少女に気が付いて息が止まった。
「…黒沼!?」
思わず叫んだ風早の声にも爽子はぴくりとも反応しない。
風早は反射的に心配になって爽子の頬にそっと触れた。
規則的な呼吸がその指先から感じられ、風早はほっと息をつき、次の瞬間自分が触れている存在がなんなのかを思い出した。
その瞬間、指先に甘い痺れが走りびくっと風早は指を引いた。
熱くなった顔が恥ずかしくて掌で口を覆った。
激しい動悸が治まるのを待って、風早は驚かさないよう静かに声をかけた。
「…黒沼?こんなとこで寝てると危ないよ…?」
爽子は少し身じろいだが、全く起きる気配はない。
風早は息をつめてゆっくりとその側に座ってみた。
野薔薇の匂いにも似た清潔な優しい香りがふわりと風早を包んだ。
その香だけで何か泣きたいような気分になった。

綺麗。触れたい。

綺麗だから、触れちゃだめだ。

ふたつの気持ちがせめぎあった。
(後編へ続く)

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